木村りんごと永田農法に見るウェブアクセシビリティ

農薬や肥料を一切使わずにりんごを育てるという、それまでは考えられなかった方法でりんごの栽培に成功した、青森県は弘前市のりんご農家、木村秋則さんの話は農業関係者だけでなく、テレビを通して多くの人が知るところとなりました。実際青森にいる者としてもこの話は驚きで、以前大学でりんごについての講義(!)を受講した際にも、「りんごは農薬を使って作らざるを得ない」という話を聞いて普通に驚いたことがあります。全国的に青森=りんごのイメージが浸透している中、青森の農家ですら考えもつかなかった方法で更にレベルの高いりんごを作ることに成功した木村さんですが、これと似たケースとして永田農法という農法が挙げられます。

永田農法とは永田照喜治という方が創始した農法だそうで、それまで基本とされてきた農作物の栽培方法を根底から崩すような方法でより質の高い農作物を作る方法だそうです。主な方法としては、土地は風通しがよく石ころだらけの栄養分が少ない場所・水は極限まで与えず・肥料は少量の液肥のみで・農薬は使わないといったものだそうです。周囲の関係者はそんな馬鹿げた方法で作物が育つものかと批判していたそうですが、実際にこの方法で作られた作物の美味しさに一同驚き、永田農法は現在も全国的な広がりを見せているそうです。

木村秋則さんのりんごと永田農法、この二つについてはいくつかの共通点があります。

  1. それまで常識と考えられてきた方法に疑問を持ち、自分の直感と実験に基づいた全く新しい手法に挑戦したこと
  2. 良いモノを作ろうとする熱意素材
  3. そのものが本来持つ力を最大限に生かすという手法
  4. それまでの常識を覆すほどの「結果」を出し、既存の常識を打ち破る実績を挙げたこと

ウェブとはだいぶかけ離れた分野からの話題ですが、上記の共通点にはウェブ制作に携わるものとして勉強になることが含まれていると思います。

最近ではホームページ制作会社も増えてきましたし、インターネットの普及に伴ってホームページ制作関連の書籍も初心者・上級者向けを問わずたくさん出版されています。その中には「これぞ王道。これぞ常識」と謳われる手法がいくつも掲載されています。もちろん正しいと思われることがほとんどだと思いますが、必ずしも常識に当てはまらないケースも起こりうるということを常に頭の片隅に置くべきなのではと思っています。何故なら技術の進歩もユーザの挙動・嗜好も時代の流れも、全てが一定ではないからです。今でこそAjax全盛の様相を呈していますが数年前まではjavascript消えそうな勢いでしたし、もし本当に消えていれば今のAjaxライクなナビゲーションは存在しなかったかもしれないわけで、それだけでもユーザが使用するナビゲーションは全く異なるわけです。時代が流れればユーザの世代も変わるわけですし、かといって年を取ったユーザが今その年代のユーザと全く同じ嗜好になるという保証もないわけです。このように流動的な業界だからこそ、その時その対象に適した解決法を頭を絞って考えていく必要があるわけです。

当然ですが木村さんも永田さんも一朝一夕にそれぞれの成功例が出たわけではありません。木村さんは本当にいいりんごを作ろうとそれこそ何年も失敗を重ねて重ねて、それでももう駄目だと思いつめ自殺を図ろうと入った山の中で偶然成功の糸口を見つけられたわけで、その追い込み方たるや並大抵のものでないことは容易に分かります。 そこまでしろということではないですが、そこまで自分の仕事に対しての執着と熱意は見習うところが多分にあると感じます。私たちウェブ制作者も、クライアントの要望と目標を実現するために頭をこれでもかとひねって企画や戦略・デザインを練りまくるわけですし、クライアントと共に、または自分ひとりで試行錯誤を繰り返して「これだ!」と思われるものを削り出していくわけです。

ところでこの話題について先に挙げた中の「そのものが本来持つ力を最大限に生かすという手法」という部分についてですが、こちらもウェブ制作と重ねて考えられる部分があると感じています。例えばナビゲーションや補足説明などですが、必要以上に文字や画像を使って強調しなくても、ユーザの自然な直感に任せてシンプルなナビゲーションにした方が、かえってユーザにとって分かりやすいものとなる場合があると思います。この辺のバランスは難しいと思いますが、下手に目立たそうとして多くの強調点を与えるよりは、「それだけ」にしたものが一番それ自身が強調されるといった感じでしょうか。これは肥料や農薬などを使って必要以上に世話をかけるより、自然の力を引き出すためにあえて厳しい環境下に作物を置く永田農法に通じるところがあるのではと思います。

また、共通点4で挙げた「それまでの常識を覆すほどの『結果』を出し、既存の常識を打ち破る実績を挙げたこと」のように、それまで有り得ないと思っていた手法があることをきっかけに花開くということは前述のAjaxしかり、近年注目されつつあるウェブアクセシビリティしかり、いつドーンと来るのか来ないのかどっちなんだい?なSecond lifeをはじめとする3D分野など、あらゆる要素で可能性があると思っています。とどのつまり、インプットとアウトプット、吸収と試行錯誤はずっと続けていくものであるということで。

 

関連記事一覧

  • コメント ( 2 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. kiyoshi

    はじめまして、kiyoshiともうします。
    実のある話いや、身のある話?ですね。

    果実、webも見える良さと隠れた良さが存在するんだ…

    もの創りの楽しさでもあり、苦しさでもあるわけですね?
    しかしまだたくさんの、おおやけにされていないものがある訳ですから今後のご紹介が楽しみですね?

  2. admin

    >kiyoshiさん
    はじめまして。コメントいただきましてありがとうございます。せっかくコメントいただいたのに気付くのが遅くなってすいません(コメント通知が機能してませんでした)。

    アクセシビリティについては様々な業界でも注視されている話題だと個人的には思っているので(ユニバーサルデザインなんかも範疇だと思うのですけど)、農業に限らず色んなところで勉強になることがたくさんあると思ってます。学ぶ機会はたくさんあるのでかえって情報が溢れて溺れそうにもなりますけど(笑)。また良いネタが入ればピックアップしていきたいと思っています。