【レビュー】モチベーション3.0(※発売前書籍)
レビュープラスさんから戴いたゲラ刷り原稿のレビュー第2弾、「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」のレビューです。
前回、同じようにゲラ刷り原稿を戴いてレビューした【レビュー】ケチャップの謎(※発売前書籍)に引き続き、今回も原稿を裁断してiPadに取り込む”自炊”を行って主にiPad上で読みました。自炊についての詳細はケチャップの謎のレビュー冒頭をご覧いただければと思いますが、自炊について新たに気づいた点があるので補足を。
裁断した原稿はPDFにしてGood Readerというアプリで読んでいますが、これの操作について画面を拡大するとその後のページ移動がしにくいと前回指摘しましたが、やり方によってはこの問題が解決します。そもそも普通の書籍のように画面を指で横にスライドしてあたかもページをめくるようなアクションを取ることがこの問題のきっかけでしたが、指でスライドするのではなく、ただ画面の左右の端を一本指でタップ(PCでいうワンクリック)すれば良かったようです。正確には、画面を拡大した場合にはゆっくり二度タップすればスムーズにページが移動しました。指で横にスライドするよりも全然ストレスが減り、快適に読むことができました。
ちなみに旬なニュースとして、「電子書籍は紙の本より読書スピード遅い」というのが出ていました。調査したのはWebユーザビリティの分野でも有名なヤコブ・ニールセン(ニュース内ではジェイコブ・ニールセン)氏による調査とのことで、タイトルの通り自分もどちらかといえばiPadで読む際は紙で読むよりも時間がかかっていると感じます。
しかし、前回のレビューでも言いましたが自分としては家の外に持ち出して読めることをメリットの一つとして考えているため、紙で読むより多少時間がかかってもこれに挑戦しているというところです。まだ慣れない部分もありますが、徐々に経験値を積んで電子書籍での読書に親しんでいきたいなと思うところです。
また前置きが長くなりましたがここからレビューです。
目次
モチベーションに対する認識の遅れ
本書「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」のテーマはタイトルの通り、モチベーションについてです。ちなみにレビューは全300ページのうちの180ページ程度でしたが、この中で繰り返し連呼されるのは「動機づけについて多くの企業、政府機関、非営利組織などあらゆる組織が新しい知識に追いついていない」ということです。
モチベーション、いわゆる仕事などへの動機づけについて、文中ではPCの基本ソフト(OS)に例えた「モチベーション1.0~3.0」という名称がたびたび登場しますが、時代やケースよってはいかに人間に対する動機づけが間違っているかということが、数多くの事例や実験をもってこれでもかと指摘され続けます(ただし一概にどのバージョンが悪いと決めつけているわけでもなかったりはしますが)。
最もシンプルかつ頻繁に登場する例は「ある活動に対する報酬として金銭が用いられる場合と無償の場合、前者は活動に興味を失うが後者は活発になる場合がある」というものです。これのシンプルかつ最も身近な例として、そして21世紀最強のビジネスモデルとして紹介されているのが、オープンソースで活動を続けるWikipediaです。
たしかにWikipediaの辞書を更新しているのは多くの一ユーザーであり、ユーザーは対価として金銭などのインセンティブを受けてはいません。しかし、Wikipediaは今もユーザーの手によって進化し続けています。これはユーザーが金銭では得られない何かを対価として感じていることが起因していると言われています。
「フリー」の概念と密接に関係
この辺りについては「フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」が参考になるかもしれません。「フリー」ではフリーの形態を「直接的内部相互補助」・「三者市場」・「フリーミアム」・「非貨幣市場」の4つに分けて説明していますが、Wikipediaはこのうちの「非貨幣市場」にあたります。金銭的な見返りがなくとも、他のユーザーの役に立っていることや、自らの知識のアウトプットによる充足感がこの活動を広げ続けさせている要因でもあります。
本書「モチベーション3.0」は「フリー」の内容と通ずる部分が多いのですが、他にも「ツイッターノミクス TwitterNomics」で紹介されているウッフィーの概念など、金銭などの報酬ではない「何か」が強烈なモチベーションへとつながることの重要性が多く紹介される内容となっています。
しかし全ての報酬が役に立たないと言っているわけでもなく、ケースによっては金銭的な報酬(外発的な報酬としばしば取り上げられています)も有効に働くと述べ、そのケーススタディについても多く取り上げられていることから、非常に穴の少ない検証とともにページが進んでいきます。その部分のキーワードとしてはルーチンワークとヒューリスティックが相反するものとしてたびたび登場します。
「マネジメント」の肯定と否定
文中では、上で述べたモチベーションに対するOSであり概念の一つである「モチベーション2.0」がいかに多くのバグを抱え、いかに「モチベーション3.0」への移行(アップグレード)が必要であるかについて再三触れています。モチベーション3.0の要旨である「第三の動機づけ」、つまり金銭的な報酬ではなく自己啓発や自己実現、社会貢献などと言われる動機づけがいかに組織や個人に必要か。そしてそれには何が必要でどういったことに気を付ける必要があるのかについても紹介されています。
個人的に強く感じたのは、このブログでよく取り上げているドラッカーの「マネジメント」に通ずる部分が多いということです。レビューした中には登場しなかったものの、目次を見れば後半にドラッカーが登場することが記されていることからも分かるように、ドラッカーが体系づけたマネジメントに共通した部分が本書には数多く登場します。それは目標管理についてであったり動機づけそのものについてでもあったりしますが、しかし同時に「マネジメントという概念そのものが問題」とも触れており、この辺りからも先で述べたOSアップグレードが時代や組織によっては受け入れにくいことを示唆しています。
本書の重要なキーワードでもある自主性(自律性)にフォーカスする段階ではこと興味をそそられます。
ROWE(ローウ)という就労システム
ROWEとは「完全結果志向の職場環境」という意味で、従業員は時間の使い方や働く場所についての制限を設けられず、ただ結果を出せばよいというシステムです。組織とすればリスキーとも感じられるこの制度により、飛躍的に生産性が向上したり離職率が下がったある会社が事例として紹介されています。
また、丸一日仕事とは関係のないことをやっても良いという制度や、20%ルール(仕事時間のうち20%にあたる時間を好きなことに使ってよい)など、従業員の自主性に任せたシステムを導入したことで新たな、そして後に企業の主力商品となるようなプロダクトが生み出されたというケースが紹介されています。
自主性という部分では、組織もそうですがこと個人に対するマネジメントが重要になってきます。ドラッカーが個人一人ひとりのために書いた唯一の本と言われる「経営者の条件」では、ROWEのシステムをうまく稼働させるための肝ともいえる部分について触れられています。
知識労働者は自らをマネジメントしなければならない。自らの仕事を業績や貢献に結びつけるべく、すなわち成果をあげるべく自らをマネジメントしなければならない。
ドラッカーは組織にカリスマは必要ないと言います。一人のカリスマではなく、組織に属する平凡な一人一人が主役であり、それぞれが組織の代表のように考え行動する必要があると指摘しますが、このROWEもまた一人一人の自主性を活かすために考えられた制度でもあります。
しかしこのROWEが組織によっては容易に受け入れられないことも指摘されています。それは単に組織の文化がそうさせている面(マネジャーが従業員を支配下に置いておきたいという欲求)もありますが、個人的にはROWEによって解き放たれた従業員や部下が、目的である結果を果たして出せるのかという不安の部分が大きいと思います。
これについては工業デザイナー奥山清行さんの体験談が参考になります。「イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインした男」であり、ピニンファリーナで生み出したエンツォ・フェラーリはメーカー史上最高のフェラーリと形容される奥山さんですが、アメリカ時代に部下を統率する際、ROWEのように基本的にはスタッフの好きなように仕事をさせ、自主性を重んじて結果が出てくるのを待ち続けたそうです。
しかしいつまで経っても良いデザインは生まれてこず、業績の悪化からついには何人かの従業員を自分の手で解雇せざるを得ない状況になったそうです。
もちろんやり方や環境など様々な要因はあったかと思いますが、一概に自主性を重んじて全てを結果任せにすれば良いとも言えない、難しい課題だと感じます。自分としてはROWEのような制度は歓迎なのですが、いざ自分が人を雇う立場になり上のようなリスクを加味した場合、そう容易に使えるものでもないかなと思いました。もちろんですが本書ではROWEを導入する際のポイントについても取り上げられていますので、参考になる部分は多いと思います。
長々と書きましたが、実は書こうと思えばまだまだ書きたいことはあります。それは昨今話題のプロボノであったり、NPOや非営利組織についてまで話が広がるんですがこの辺りにしておこうと思います。
本書の半分を読ませていただいて感じることは、組織や個人のモチベーションがいかに重要で、長期的に見ればそれがいかにメリットへつながるか。この重要性を理解することは組織にとって簡単ではないかもしれませんが、本書は数多くのケーススタディや調査結果とともに半ば理詰めで説得をしてくれます。仕事についてやりがいやモチベーションが低くなっている方、「なぜ自分はこんなにやる気が出ないんだ」と思われている方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。自分の中の仕事に対する心を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
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