「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法【読書レビュー】
レビュープラスさんから「「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法」を頂いて読みました。
旧日本軍の戦略について主に負の面から考察した「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」が1,2年前話題になったことがありますが、「空気~」の著者はこの「失敗の本質」を分かりやすくまとめた「「超」入門 失敗の本質」の著者だそうです。名著の呼び声高い「失敗の本質」は読みたいと思いながらまだ手が出ていなかったので、この機会に「「超」入門」の方から入ってみようかなと思ったりしています。
「空気」は文字通り私たちの周辺に常に存在するものですが、常に存在するがゆえに普段意識されにくいものの代表格と言えます。しかし本書ではこの「空気」というものについていわゆる物理的ではなく、感情的側面と実用面における体系化を図っていると感じました。
ビジネスや勝負事(本書ではサッカーのジョゼ・モウリーニョ監督が特に引用されています)から男女の関係に至るまで、分かりやすい事例を当てはめて空気を読まないことによるリスクからその原因まで、一つひとつ丁寧に考察されています。男女の関係においては欲求段階説のマズローの言葉から「男性と女性では、同じ行為について受け取る意味が違う」を引用し、家庭のゴミ出しにおける男女の認識ギャップを説明しています。本書とは関係ないところですが男女脳の違いについてしばしば取り上げられることがあります。これについては方方で見解が別れるところですが、モノによっては確かに男性と女性の間で認識の違いを感じることはよくあるような気がします。もっとも、昨今は価値観や日常触れるもの、娯楽などの多様化によって一概に男女間の違いを図りにくくなってきている(女性の価値主張に共感できる男性など)場合もあり、なかなか一様のものとして断言は難しいと思いつつ、本書のシンプルで身近な例などは腑に落ちやすい気がします。
本書では「空気」のタイプを4つに体系化しています。が、個人的にはその分類よりも気になったのは「問い」の重要性です。『「問い」の如何によって「空気」が変わる』という指摘は、仕事上もクライアントとやりとりする中で配慮していることですし、プライベートでも気に留めておくべき大切なことだと思います。本書では事例として国立公園の大失策が取り上げられていますが、規模の大小を問わず、「問い」の立て方、質問の仕方には気を配るべきことがたくさんあると思います。
また、ハロー効果やブラシーボ効果などが起こす「空気」についても紹介されており、この辺りも個人的には琴線に触れる部分があります。実際には健康体なのに余命わずかという誤った健康診断結果を受け取ることによって体調を崩すといったような、まさに「空気」が実態にまで影響を及ぼす事例です。
この辺りについて自分の頭に浮かんだのはアランの「幸福論」です。「幸福論」は幸福の概念的な啓発と思われがちですが実際はとても実践的なことが書かれており、上の事例について照らし合わせながら読むととても面白みを感じられるかもしれません。「疲れたなら椅子を差し出してやれば良い」や暴れ馬の話、泣き止まない赤ちゃんのくだりなどが個人的にオススメです。
「幸福論」と合わせて読むと改めて気づくのは、「空気」は実態と密接に関連性があるということです。目に見えず私たちの周りに存在する「空気」は、私たちの言動や行動、考え方によって様々に形を変えて私たちの状況を良くも悪くも変え、やがて自分に戻ってきます。また、「空気」は他人と共有しているものであるがゆえに、そして普段意識されにくいものであるがゆえに、よくよく意識しておくことが大切であると思わされます。
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