【レビュー】クーリエ・ジャポン2010年3月号(Vol.065)
レビュープラス様から戴いた、クーリエ・ジャポン2010年 03月号のレビューです。
今回の特集は「オバマ大統領就任から1年 貧困大国アメリカの真実」というセンセーショナルなタイトルです。「あのアメリカが?たしかにサブプライムローンとかで騒いでたけど貧困大国って言われるほど?」と思われるかもしれません。でも、この特集を読み終えたあと、自分の中には2つの感情がわいてきました。
1つは「国際ニュースをチェックしたくなった」こと。ことアメリカの経済状況は日本への影響が大きいことは前々から株価やそれこそサブプライムローンなどで感覚的に分かっていましたが、この特集の内容がいずれ日本でも本当に起こることとした場合、海の向こうで起こっている「未来の日本」の情勢は無視できないと感じたからです。
うちでは地元紙を購読していてたまに日経新聞を買って読んだりするんですが、政治や国際情勢欄はテレビやネットのニュースで得る知識に任せてあまりチェックしていませんでした。でも今回のクーリエ・ジャポンを読んだことで、今度からはもっと目を通してみようと思うようになりました。大げさなようですが、そのくらいのインパクトが今回の特集にはあります。
2つ目は「これが日本の遠からぬ未来なのか」ということ。嘘に越したことはないと思いつつも、政権交代や世界的不況、日本の就職氷河期とアメリカの高い失業率、破綻間近の保険制度など、今の日本とアメリカには似ているというより酷似している点が本当に多い。そして「先に」事が起こっているのはアメリカです。多くの点で似た状況のアメリカと日本。この特集で取り上げられているアメリカの貧困が日本でいつ起こってもおかしくない。「そんなまさか」と思っても「いやひょっとしたら」と言う方が言いやすい、そんなあまり嬉しくはない感じです。
前置きが長くなりました。前置きと言えば今回の特集は堤未果さん(堤美香さんwikipedia)の責任編集だそうです。堤さんは9.11同時多発テロの経験からジャーナリストへ転身し、2008年に出版された「ルポ 貧困大国アメリカ」がベストセラーになるなど、今回の特集においてこれ以上の方はいないという方が監修されています(ルポ 貧困大国アメリカ IIも発売中です)。
冒頭はその堤さんへのインタビューから始まりますが、この内容がとても分かりやすいです。一通り読めば今回の特集の概要をつかむことができ、特集の内容へ入っていきやすいと思います。「change」「hope」など希望に満ちた言葉とともに国民の期待を一心に受けたオバマが輝いていた就任当初。それから1年経った現在に至り、なぜオバマの改革は難航しているのか、どういった問題が立ちはだかっているのかなど、アメリカの現状についてとても平易な言葉で語られています。
いよいよ本編。「数字で見るオバマ政権下でのチェンジ」は、オバマ大統領の就任時から現在に至るまでの3期について、経済問題・国際問題・国内問題の3つと掛け合わせた表で紹介されています。こういったグラフィカルな紹介だと数値が比べやすくてより一層深刻さが引き立つという感じです(あんまり笑えない)。
目次
最後のセーフティーネット「フードスタンプ」
フードスタンプというのは聞き慣れない用語ですが、いわゆる食糧配給券だそうで、食料と交換ができるというもの。クーポン形式やICチップを内蔵したカード形式のものなど種類は色々あるそうです。受給者は年々増加しており、現在では3600万人を越える人々が、一人あたり一ヶ月で130ドル(平均)の補助を受けているそうです。失業率が10%に迫りそうななか、このフードスタンプが唯一の補助制度=最後のセーフティーネット(安全網)と呼ばれているそうです。そしてここにこの特集が「貧困大国」の名を冠した理由の一つがあります。
中流階級のジレンマ
驚くべきはフードスタンプの受給者が貧困層だけでなく、中流階級の人々にも広がりつつあるということです。それまで「フードスタンプを受け取るのは怠慢の印」という意識さえあった地域でも、フードスタンプの受給者が増えつつあるというのが現状だそうです。
この制度を悪用する人も少なからずいるそうです(日本でも派遣村の給付金横領の問題がありました)が、本当に困っている人々が増えつつあるのは現実。まして人間の絶対欲である「食欲」に危機が迫り、正気でいることも難しいような状況。背に腹は代えられないジレンマに陥りながら、フードスタンプを安心の灯火として頼りにしている人たちも多いことが分かります。
上画像:図録▽相対的貧困率の国際比較より拝借
余談ですが、日本でも貧困率は進んでいると言われているそうです。上の図は各国の相対的貧困率(国民所得額の中央値の半分に満たない人の割合)を示した図ですが、アメリカについで日本が2番目に高い数値となっています。日本の相対的貧困率については厚生労働省:相対的貧困率の公表についてのページにデータがありますが、そこでは子供の貧困率も同様に高い傾向が示してあり、この数値の高さがいわゆる「ゆとり教育」で家庭に教育の一部を任せたことによる「家庭の経済事情による教育格差」を生じさせたと指摘する声もあるようです。
ここまで書いてちょっとお腹いっぱいな感じもしますが、まだまだこれからが始まりというか(やっぱり笑えません)。
頓挫したオバマの医療改革
個人的にはこの医療改革の失敗状況が、オバマ失策の代表として語られることが多い気がします。日本のような「国民皆保険制度」がないアメリカでは、公的保険(高齢者・退職者を対象としたメディケアや、貧困者・障害者を多少としたメディケイドなど)も存在するものの、大半は民間の保険会社が市場を独占している形だそうです。
公的保険に入れない多くの人々は民間保険に頼るほかないものの、高額であったり昨今の不況の影響で保険料が支払えないことから、無保険者にならざるを得ないケースが増えているそうです。皆保険制度の日本ではなかなか考えられないようなことですが、そんな日本も保険制度の破綻が噂されて久しいのもまた事実です。
もちろんオバマも手をこまねいているわけではなく、当初の改革では皆保険制度の実現を目指しましたが、業界からの圧力やネガティブキャンペーンによって妥協案を重ねた結果、逆に公的保険が法案から排除されるような事態となっています。堤さんの冒頭インタビューにもありますが、大統領戦でのオバマへの献金(7億5000万ドル)のうち、2000万ドルもの献金が医薬品業界や医療保険業界からのものであったそうで、この時点で業界からの圧力がオバマにかかることを有権者は気づくべきだったと指摘しています。
この医療改革の特集では、記者とその兄が遭遇した保険制度に絡む悲劇のストーリーとともに、アメリカの保険制度のあり方が紹介されています。「なんとかなる」と思っていたことが全くどうにもならなくなり八方塞がりになっていく。保険料の不払いなど日本でも同じような問題がありましたが、「病気になったら最後」の話はとても恐ろしく他人事とは思えないリアルさです。
教育すら不況の影響を受ける現実
ここでも取り上げられるのは「中流階級」の人々です。以前は金利面や条件で普通に利用されていた学資ローンなども、不況の影響で融資枠は縮小するだけでなく、住宅ローンの金利上昇という別の角度からも家計を襲います。さらには学校の授業料自体もかつてないスピードであがり続けているという多重苦。どうやって子供を学校へやれと?
大学側も手をこまねいて見ているというわけではなく、様々な対策をとっているようですが状況はいかんともしがたく「経費削減で教育の質を下げるか、授業料を上げるか」の二者択一を迫られているそうです。そんな中、恐ろしい状況も浮き彫りになってきます。
金持ち=名門大学
多くの大学で採用されているというSAT(大学進学適性試験)。公平にみえて実は裕福な家庭の受験生が優遇されると(本特集では指摘されている)いうシステムだそうで、家庭の所得に応じて得点が上がるという驚くべきものです。他にも入学枠の3分の1が富裕層枠として用意されていたり、富裕層でなければ受験すら難しいアーリー・アドミッション(早期合格)など、家庭の経済力があたかも子供の学力に換算されるような異常な事態となっています。
ビジネスの土台は刑務所
特集の最後は「刑務所ビジネス」。日本でも以前ニュースになったことがある、民間による刑務所の運営です(日本の場合、正確にはPFI方式と呼ばれる官民混合施設になるそうです)。アメリカの場合は徹底した市場原理の流れとそこからくるコスト削減の必要性から、民間の刑務所運営が行われているそうです。具体的には政府と民間ではコストに10倍もの差が出るそうです。
繰り返し上げてきた不況の影響により、アメリカの囚人数は30年前の3倍にもなるそうです。しかしこれが意外にも恩恵を受けることになるのが自治体。刑務所に収容される囚人はその地区の住人としてカウントされるため、助成金が増えるというカラクリがあります。
刑務所を設置するメリットは他にもあり、安い労働力を大量に使えることや、囚人であることから福利厚生を考慮する必要が低かったりなどだそうです。メリットというにはあまりにもひどい話です。
しかも一度刑務所に入ったら、入所時に支払う手数料などの名目で多額の借金を課せられ、出所してもその金を稼ぐのが難しい場合は犯罪に走り、また刑務所に舞い戻るという負のスパイラルが待ち受けています。保険制度の節でも言いましたが「刑務所に入ったら最後」とも言えます。
仮に刑務所送りにならなくても、「民間の保護観察機関」によって監視され、あらぬ理由で罰金を徴収されるなどといった別の恐怖もあるそうです。貧困と犯罪、そこには「刑務所ビジネス」という本来密になるべきではない実態が現実としてあります。
私たちに何ができるのか。
かなり長くなってしまいましたが、ここまで書いてきたレビューの中で、今の日本の遠からぬ未来が見え隠れする部分はたくさんあったと思います。このような悲劇的なアメリカの状況と同じものを近い将来甘んじて受けるか、抗って自分にできることを考えるか、おそらく誰もが後者を選ぶと思います。ではそれに対して私たち個人が何ができるのか。それについては堤さんが結びで述べられていることが参考になると思います。
戦争経済をはじめ、失業率に貧困、教育に医療、私たちが抱える問題は、センセーショナルな報道やリーダー個人のみに焦点を当てた「点」だけを見ていては実態が見えなくなる。それらの点同士をつなぎ合わせ、全体を「面」で見ることで問題の本質をすくい取るために、本誌「クーリエ・ジャポン」のような雑誌をはじめ、多角的な視点からの情報源は今後ますます価値を持つだろう。情報リテラシーは自己責任だ。そして私たち市民にとって「真実」こそが最大の武器になる。
まさにこの節が最初に述べた「国際ニュースをチェックしたくなった」理由です。「メディアの情報に踊らされ」とは、ネットが普及してきた今よく言われることです。だからこそ自分というフィルタを磨くことによって正しいと思う情報の取捨選択をしたり、何をもって自分の意志と行動につなげるかが重要になってくるはずです。そのためのフィルタの精度を上げる糧になるのが、クーリエ・ジャポンなど自分一人では得ることのできない、かつ多角的視点を持った信頼できると自分が思う情報源なのかなと感じました。
今回は特集のみに絞ってレビューをさせていただきましたが、いつものように世界各国のニュースも盛り沢山ですので是非ご覧になってみてください。以上です。
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