視覚・聴覚障害者向けiPad講習会

Webアクセシビリティに関する話題でつくるカレンダー「Web Accessibility Advent Calendar 2013」に参加させていただきました。12月19日担当の高森です。

いつもこのタイトルで書く時は、講習会の開催告知だったり報告だったりすることが多いのですが、今回はカレンダーへの参加ということで開催告知の類ではありません。Webアクセシビリティをテーマにということで、今回は視覚・聴覚障害者向けiPad講習会についてご紹介します。

視覚障害者向けiPad講習会の様子私は約2年前からボランティア活動の一つとして視覚障害者さん向けにiPadの講習会を始めました。その当時、初代iPadを買って遊びながら色々調べていたところ「アクセシビリティ機能がついている」という噂を聞き、実際に試してみると確かに音声読み上げをしたり画面の拡大ができたので「これなら視覚障害者の人にも使えかも?」と考えました。

当時はiPadのアクセシビリティ機能についてあまり情報がなく、自分で試行錯誤したりYoutubeの動画を漁ったりしながらある程度の使い方を覚え、半ば勢いで視覚障害者の方を集めて最初の講習会を行いました。

また今年(2013年)に入ってから聴覚障害者さん向けのiPad講習にも挑戦してみました。そんな活動とご縁がつながって、今年は障害者の方にiPadの使い方を教えられる健常者を育成するための人材育成講座「視覚・聴覚障害者向けiPad講習の人材育成講座」を、青森県のサポートを頂いて行っています。

iPadのアクセシビリティ機能を説明する様子これらの縁あって「障害者のIT機器利用」といったテーマで何度かセミナーに呼んで頂きました。

セミナーでは実際にタブレットを使用した実演を交えて、障害者の方がどのようにタブレットを使うのか、どんな機能やアプリが使えるのか、そもそも障害者がそれらの機器を使うメリットは何なのか等をお話する機会を何度か頂きました。

ちなみにいつも講習で使っているのはiPad(2~4世代)なので、今回はiPadに関連したトピックを抜粋していくつかご紹介します。

目次

障害者がiPadを使うメリットは何か

iPadは音声読み上げ機能(VoiceOver)や画面拡大機能などのアクセシビリティ機能が標準搭載されています。Androidだと音声読み上げ機能はTalkbackが搭載されているのですが、日本語の読み上げ対応が不十分だったり、別途音声エンジンのアプリをインストールする必要があるなどハードルが高い面があります。

また、健常者と同じ機器を利用できるのもメリットと言えます。障害者が使用するツールは専用に作られるものが多いため、それらは高額に設定されているものが多いです。障害の等級によって1割負担などで物品の購入が出来る場合もありますが、常に使えるというわけでもありません。

障害者も健常者と同じものを等しく使いたいと思っているし、タブレットという流行モノに興味があると、当事者の方からはよく耳にします。また、家族や周囲の方でiPadを使っている人がいれば、分からないことを聞くことができます。そういった面でも、健常者と同じものを使えるメリットは大きいと言えます。

視覚障害者のiPad利用について

視覚障害者といっても障害の種類は様々で、その度合も細分化されます。大雑把に全盲と弱視の方に分けたとした場合、全盲の方はVoiceOverという音声読み上げ機能を使って画面に表示されたアプリや文字などを読み上げて使用します。

VoiceOverは操作する指の本数やタップ数、フリックの方向などの動作(ジェスチャー)を行うことで、様々な機能を利用することができます。最初は機能の多様さにとまどう方もいますが、自動全文読みや見出しスキップなど、覚えれば覚えるほどiPadを活用しやすくなります。

視力が極端に低い弱視の方は、画面を拡大するズーム機能や、色を反転する機能などを使って操作します。

また、障害によっては弱視の方でも音声読み上げを使いたいという方もいます。その場合はズーム機能とVoiceOverを併用することもできます。

音声で機能を起動するSiriも活用できる可能性があります。視覚障害者の方の場合は凹凸を認識できる物理キーボードに慣れている方もいらっしゃり、フラットなiPadの画面がひどく使いにくいという方もいらっしゃいますが、Siriや音声認識機能を使うことによって、声でアプリを利用したり、文字入力をしたり、メールを送ったりなどができます。PCとは違う「キーボードありき」のデバイスではないということもiPadの特徴の一つです。

視覚・聴覚障害以外にも使えるアクセシビリティ機能は他にもありますが、今回は割愛します。

聴覚障害者のiPad利用について

視覚を使うことができるので、健常者とほぼ遜色なく操作することが可能です。音声に依存したり音楽を聞くようなアプリをお勧めすることはありませんが、その他は問題なく使用することができます。

聴覚障害者の方においては特にコミュニケーションの補助機能としてiPadが活用できる可能性があります。筆談を快適に行うアプリもありますし、Skypeなどのビデオ通話アプリは手話でのやり取りを可能にします。手話を理解できない健常者とのやり取りには音声の文字変換機能アプリが役に立ちそうです。

また、メッセージの既読確認機能も活用の余地があります。電話による音声でのやり取りが難しい聴覚障害者同士のコミュニケーションにおいて、自分の送ったメッセージを相手が読んだということが確認できる既読確認機能はとても役に立ちます。メールが普及する以前、離れた距離にある聴覚障害者同士のやり取りはFAXが主だったそうです。しかしFAXが相手に届いたかどうかを確認するのに電話は使えないため、送付された相手は届いたことを通知するためにFAXを返信するという手間をかけていらしたそうです。

メールが普及してからも既読確認は確実ではないわけですが、LINEの既読機能はこの不便を解消する方法の一つとして有効です。人によっては余計な機能と思われがちなLINEの既読機能ですが、人と場合によってはメリットが有ると考えられます。

まとめ

最後に、セミナーでこれら障害者のIT機器利用についてまとめとして紹介することを抜粋します。

  • IT機器は障害者でも使うことができるように進化し続けている
  • アクセシビリティ機能には障害者だけでなく健常者や高齢者も便利に使えるものがある
  • アクセシビリティには多様性がある(視覚・聴覚・四肢障害 等々)
  • IT機器の使いやすさには作り手の配慮も影響する
  • ツールと知識で改善できることはたくさんある
  • 障害を持っている人に直接会い、話を聞き、触れ合う体験をすることが大切
  • 健常者は明日の高齢者であり障害者
  • 障害への貢献こそICTが役立てられるはず

こと私がiPad講習を通じて感じることは、障害を持つ方との直接的な関わりです。これは一般的な仕事にも言えると思いますが、組織と顧客との思考やニーズには隔たりのあることが多いです。組織が顧客をイメージしてあれこれ企画しても、当の顧客は全く異なるニーズを持っているということは往々にしてあるわけで、これは顧客を障害者の方に置き換えても十分当てはまります。

健常者の目線やイメージだけでは、障害者の方が持つニーズを捉えきることはできないと思いますし、実際に障害者の方と触れ合って直接やり取りをする中で、様々な発見がありました。

例えば全盲の方であればカメラを使うことはないと思うかもしれませんが、全盲の方でもカメラアプリを起動して写真を撮ってみたいという方は結構いらっしゃいますし、写真アプリで写真を開いてみたいという方もいます。全盲の方でもSkypeに興味があるから使ってみたいという方もいました。聴覚障害者同士のやり取りにFAXを使っていたということも当然知りませんでした。

こうした様々な発見をすることは、自分に新しい視点や気づきを与えてくれますし、本当に求められていることを提供できるきっかけになります。個人的なことですが、これからもこうした活動を細く長く続けていき、より人の役に立つことができるようにしていきたいと思います。

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