全員で稼ぐ組織【読書レビュー】

全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書レビュープラスさんから「全員で稼ぐ組織」を頂いて読みました。

本書のサブタイトルは『JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書』。実際に読んでみると、メインタイトルとサブタイトルを入れ替えても良いのではというくらい、アメーバ経営についてのまさに教科書的な内容です。

アメーバ経営といえば京セラの創業者である稲盛和夫氏が考案した組織マネジメント手法で、ビジネス書やビジネス雑誌を読んでいる方であれば、稲森さんのお名前もアメーバ経営というキーワードも見たことはあると思います。自分も過去には稲森さんの著書「生き方」や「働き方」、瀬戸内寂聴さんとの対談「利他」などを読んできましたが、実はアメーバ経営については漠然としたイメージしかありませんでした。これについては冒頭で簡潔に説明されています。

アメーバ経営の最大の特徴は、会社組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団組織に分け、各アメーバのリーダーがまるで経営者のように小集団組織の経営を行うことです。

上の説明では「リーダーが経営者のように」とありますが、実際には「社員全員が経営者のように」というのが正しい意図のようです。つまり「いかにして社員一人ひとりが経営に関わっている意識を持てるか」がポイントです。

アメーバ経営では、各アメーバごとによる「部門別採算制度」が取られています。そして面白いのが「社内売買」という仕組みです。これは社内の各部門間でのやり取りを、外部の顧客とやり取りと同様に考えるものです。つまり顧客と直接接点のない部署でも収益や予算組の意識が持てるよう、社内の部門間でお互いの仕事を売り買いするというものです。これにより、直接的な収益に関わりがないと思われる部門の仕事を金銭的に視覚化することで、各部門はより自らの部門における生産性やコスト意識を高めることができることになります。

アメーバ経営の手法は秘匿されていましたが、現在では日本だけでなく中国など世界でもアメーバ経営の手法を取り入れ、業績を拡大している組織が増えているそうです。京セラという業種柄、製造業のみに適用できる手法かと思われるかもしれませんが、実際には医療や福祉関係など異分野での導入事例も紹介されています。異分野での導入に際しては、製造業とは様々な仕組みが異なるため、アメーバ経営を行いやすい組織体制への改変や、その分野に合わせた用語のカスタマイズなどで順応させていくようです。

アメーバ経営がその力を最も世間に知らしめたといえば、何よりもJALの再生と言えます。これについては本書だけでなく様々な書籍で取り上げられているので、どのような改革が行われたのかを知っている方も多いと思います。本書でも他の書籍と同じく、社員への意識改革について触れられてもいますが、本書の要諦はやはりアメーバ経営。組織マネジメントにおけるアメーバ経営の導入手法が詳しく紹介されています。

サブタイトルにもあるようにアメーバ経営の教科書的な一冊ですが、しかし改めて振り返ってみるとその根底にはピーター・ドラッカーのマネジメント要素もかいま見えます。組織で働く者一人一における動機付けの重要性なども見るに、組織マネジメントにおける原理は不変なものであると感じます。動機付けについては本書では「京セラフィロソティ」として随所に紹介されています。

一方で、一見するとアメーバ経営とドラッカーのマネジメントにおける大きな違いを見て取れます。アメーバ経営では「利益」を重視しますが、ドラッカーは「利益は条件」として主軸に据えていません。しかしよくよく本書を読んでいけば、アメーバ経営においては利益向上における組織の健全化や社員のモチベーション向上を重視しているので、ちょっとした視点の角度が異なるだけであり、両者の利益における差異についてもそれぞれに理解ができるように思います。

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